仔牛「テール(愛称)」の母牛ビバリーはテールを出産後、第4の胃が場所を変えてしまう「第四胃変位」という病気になってしまいました。この病気は、分娩後2週間以内に発症するといわれています。多くの場合、変位になる直前には第一胃は非常に小さくなっており、第四胃にはガスがたまっていくそうです。第一胃が小さくなる原因としては、当然のことですが、牛がエサを十分に食べないからです。その原因としては、えさがおいしくないとか、ストレスやほかの病気で食べることができない等々が考えられるようです。これらの原因で、余ったアンモニアが第四胃に流れ込み、発酵することによりガスが発生します。普通の状態ですと、たとえ、そのようなことになっても、ガスは腸に送られ排出されます。このことを証明するかのように、ビバリーが調子が悪くなると、何ともいえないにおいが牛舎中に漂っています。
出産後850kgあった体重も、えさが食べられないために一時は570kgまでに減少しました。最後は、口からよだれを垂らし、えさを全く口にしなくなり座ったままの状態になってしまいました。
日に日に目に見えてやせ細っていくビバリー。声を掛けてビバリーを励ますことしかできない自分に腹が立つこともありました。1日も早く元気を取り戻して欲しい。その思いだけで看病をし続けました。

やせてきたビバリー 腰骨も目立ちます
えさを全く食べなくなりました。 腰骨が目立つようになり、動かなくなったビバリー

普通、このような状態になると、治療をするための費用と、今後元気になったとしてこの牛が稼ぎ出すお金を比較することになります。たくさん乳を出し手術代を回収できる見込みが立つのであれば手術することになりますし、そうでない場合には処分されることになります。このことを知ったとき、ビバリーは経済動物ということを知りながら「役立たずの牛は処分する」という考え方には納得がいきませんでした。lこの時、改めて経済動物の現実を思い知らされました。やっぱりどこかでは経済動物じゃなく、ただかわいいという愛玩動物としての接し方をしていたせいか、私たちには、その現実をすぐに受け止めることができませんでした。
ビバリーの場合も当然、そこが問題となり、一時は処分の方向で校内で検討されました。加茂小学校との交流の中で、仔牛の様子と併せてビバリーが重い病気になっていることも伝えビバリーの様子をテレビ会議システムで流し続けました。ビバリーの様子を見ながら、加茂小学校の児童はビバーリーへの応援メッセージを送ってくれました。高松農業高校の生徒と加茂小学校の子どもたちの願いが通じ、やっと、学校もビバリーに可能な限りの治療をすることにしました。このとき、みんなの願いが通じたと心からうれしかったです。


まず、点滴が始まりました。1回3リットルもの薬を点滴します。毎日、点滴をしてビバリーの回復を待ちました。

点滴中
点滴中のビバリー(1日3リットル)

しかし、回復はおろか、立つこともできなくなってしまいました。そして、、第四胃を元に戻す治療(第4胃簡易整復法)を行いました。この治療で変位が治る確率は30%以下だそうですが、ロープによる横臥方式(牛を転ばし、手足をくくり、牛を逆さにすることにより元の位置に胃を移動させる方法)により行われました。約30分間の治療の後、やっと、元の位置に胃が移動することに成功しました。しかし、翌日には、変位の状態に戻り、外から胃の位置を元に戻す治療は失敗に終わりました。

簡易整復法による治療
横臥方式による治療(動画)
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このため、ビバリーに体力が残っているうちに手術をすることに決定しました。手術による回復の可能性は90%以上ということです。3時40分頃から始まった手術は、約30分間で終了しました。その後、手術の甲斐があり、徐々に食欲が出始め、快方に向かっていきました。

手術中
手術大成功(動画)
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これらの様子は、テレビ会議システムで加茂小学校に送りリアルタイムで見てもらいました。高松農業高校では、平成8年頃、第四変胃になり手術したことがあったそうです。しかし、手術の判断が遅れたために手術前に体力を使い果たしていたので手術の途中で息を引き取ったことがあったそうです。ビバリーは、このこともあるので、体力のあるうちに手術をしようということになり、成功をおさめました。
平成8年のことがあったから、手術が手遅れにならずにすんだ、ビバリーが助かったんだと今はこの犠牲になった牛に感謝しています。